環境と雇用を守る。三方良しのフェアトレードペーパー誕生の秘密とは
今となっては当たり前のように使われている言葉「SDGs(Sustainable Development Goals)」
持続可能な開発目標として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことだ。
その国連サミットよりも以前から、環境問題に危機を感じ、名刺を通じて世の中をより良くしていきたいという、丸吉日新堂印刷株式会社、代表 阿部晋也(あべしんや)さんに話を伺ってきた。
大好きな北海道の自然を守りたい。そんな想いではじまったエコ名刺
【人物紹介】
阿部晋也(あべしんや)
丸吉日新堂印刷株式会社 代表取締役社長
ペットボトル再生材名刺や、ブランディング名刺(三つ折り名刺)といった特徴ある名刺を製作・販売。
アフリカザンビアバナナペーパー名刺など地球環境に配慮したエコ名刺の通販事業を中心に据える。
名刺による人の交流を促進することを目的とした「エコ名刺交流会」の開催も手がける。
ーーー早速ですが、現在の事業についてお伺いしてもよろしいでしょうか
すべてリサイクルしたエコ素材の名刺の通販を営んでいます。
自然素材、天然素材。地球に優しい名刺。
自分もそうですし、渡した相手も「そうだよね」と、エコ名刺を使い環境に意識を向けるきっかけを作ることで、使う人の意識も変えるための名刺、それがエコ名刺なんです。
ーーー環境問題に対してのきっかけはなんだったんでしょうか
もともと北海道生まれでして、サーフィンをしたり、釣りをしたり、自然の中で生まれ育ちました。
月日が経つにつれて、だんだんと海が汚れて地形が変わったり、悪くなっているのが分かってきたのです。
少しでも自然を守らないと釣りもできない、サーフィンもできなくなる。どんどん環境や自然が悪くなっているのを肌で感じていました。
もともと印刷会社を経営していたのですが、ある時、とある大手飲料メーカーさんから「ペットボトルから名刺を作れないか」と打診をされたのがきっかけです。
ペットボトルをリサイクルして名刺を作る方法をいろいろと探したんですけど、当時はそういう商品が無かったんですね。
でも「もしかしたら、できるかもしれない」と思って見つけたのが、滋賀県にあるペットボトルをリサイクルして卵のケースを作っている会社だったんです。
電話をして、ペットボトルを使ったリサイクル名刺開発のことを話したら、工場長に「面白いね」って言ってもらえて。
そこから何回も試作品を作っていただき、印刷機械もペットボトルのリサイクル用に合うものを探しました。
その後、何度も改良を重ねて、なんとか商品化でき、その飲料メーカーさんの名刺に正式採用されました。
依頼された大手飲料メーカーの社員さんからは、ペットボトルリサイクル名刺を渡す度に、取引先の方に「御社は環境にいいことをしていますね」と褒められているという話や、
「自分の会社は環境に配慮しているという自負で、お客様とのコミュニケーションも以前より良くなっている」と耳にするようになりました。
そこで、その大手飲料メーカーさんに確認して、一般のお客さんにもペットボトルリサイクル名刺を販売したいとお願いするとOKが出たんです。
より環境のために貢献できるようにと、1枚あたり1円の募金をつけた名刺を販売しました。これが環境問題を配慮したエコ名刺スタートのきっかけですね。
名刺は小さいけど、社会を変える一歩となる
ーーー事業をやってきて嬉しかったエピソードなどはありますか
弊社では、名刺をお買い上げいただいたお客様にアンケートはがきをお送りしているんですね。
実際に名刺を使った感想だったり、うちの会社に求めるものは何かないでしょうか?と送っています。
お客様からはこの名刺を使って、「コミュニケーションが広がってよかった」「渡した相手も反応が良かった」「また逢いましょうと言われるようになった」と喜びのお声をたくさんいただいています。
コミュニケーションを通して環境を変えるのが目的なので、私も社員もすごく嬉しかったです。
お客様の声はすごく嬉しいですね。せっかく選ぶなら、社会にいいものを選びたいという人が使っていただいて、もっと輪が広がっていく。
名刺自体は小さいけど、社会を変える一歩となる仕事をしていると思っています。
実は、エコ名刺交流会といった場作りもやっているんです(コロナのため今は自粛中)
そこでリアルで人と人が会う。人と人をつなぐのがこの仕事だと思っています。
名刺1,000枚の飛び込み営業。人と話すのが苦手だった過去
ーーー逆に、つらかったことはありますか
もともと大学を出て、普通に就職活動をして東京にある接着剤のメーカーに就職をしたんですね。結果的には半年で辞めたんですけど。笑
実家が印刷会社で、父が昔からひとりでやっており、印刷業はいろんなお客様と出会えるから本当にいい仕事だぞ、ちょっとだけ手伝ってみないか?と父が言うので、1ヶ月だけやってみようと思いました。
そこで初日に名刺1,000枚を渡されて、仕事を取って来いと言われたんです。
当時は何の知識や経験も無いので、朝から晩まで飛び込み営業でした。
実はこれがすごく苦手だった。人と接するのが苦手だったんです。初対面のお客様と会話が続かないんですよね。でも、やらないといけない。
しかし当時は、100件に1件くらいは見積もり依頼が貰えたのです。つまり、1,000件回れば10件。結構、楽だなと一瞬思ったけど、つらい。
やっぱり営業はつらいんですよね。
どうすれば営業しなくても仕事が来るようになるのかを考えるようになりました。そのツールで一番大事なのが名刺だとわかったんです。
ーーーその経験が今に活きているんですね
名刺に工夫をして、プロフィールや写真をいれることで、口下手な人でも仕事がとれるなぁと。
それで名刺にも力をいれるようになりました。
普通の名刺ではダメなんですよね。初対面の人でもコミュニケーションの広がる名刺でないと。
世の中には私と同じように営業で苦しんでいる人もいるのではないだろうか?それで解決できるならいいんじゃないかなって。
実際に今ではそういうお客さんがたくさんいらっしゃいます。
阿部代表の考える三方良し。
ーーーご自身で大切にされていることはありますか
やっぱり、いいつながりといい出会い、善の循環。三方良しを大切にしていて。
ビジネスはお互いが良くならないといけないので、うちも、お客様も良くなる、仕入先、配送の運転手さんとか、すべての人がプラスになる仕事ならやりますし、誰かがマイナスになるのなら、仕事は受けないですね。
飛び込み営業をしているときに感じたのですが、お客様とか、目上の人には対応はいいのに、いきなり仕入先や飛び込み営業には冷たいみたいな、そういう会社にはなりたくないですよね。
みんな同じにしたい。このことはうちの社員にも言っているんです。配達や仕入れ先の方にもお客様と同じように接するようにと。
実は、年に2回くらいでしょうか。うちのスタッフ自らが考えて、郵便や配達の方々に日頃の感謝の気持ちとして、メッセージを付けてお菓子セットなどのプレゼントをお渡ししているんですね。
それを見ていて、いいなぁって思いますね。
ーーー相手によって対応が変わる方もいらっしゃいますよね
自分が逆に同じ立場になったときに同じ態度をとるのであればいいと思うんです。
利害関係が無いからと言って、コンビニの店員さんやタクシーの運転手さんとかに無下な態度を取る人は好きじゃないですね。
ビジネスは対等な人間関係
ーーー実際に事業を継続していくためのポイントはどんなことでしょうか
今、弊社はおかげさまで40周年を迎えることが出来ました。私が社長になって25年なんですけど。
ポイントですか…困った時に出番だってことだと思います。
普段は普通でもいいんですよ。ただ、いざ困った時にいかにマニュアルを超えて、サービスを提供するか。
たとえば、翌日大事な商談があり、名刺が切れてしまってどうしても明日までになんとかして欲しいとき、徹夜をしてでもお届けするなど、
やっぱりビジネスは人と人との関係性が大事なので、相手が困った時にはみんなで力を合わせてお互い助け合う、そのご恩がまわりまわってお仕事をいただけるような関係っていうんですかね。
ただ安ければいい、という関係性が大嫌いでして、ただ単に価格競争だけの相見積もりの仕事は一切、断るんですよね。他に安いところはいくらでもあるじゃないですか。
値段じゃない価値っていうんですかね。ずっと一生つながる。その人のために仕事をしたいと思えるような人間関係がないとビジネスは続かないと思うんですよね。
なので、こちらの発送ミスや、どうしても今日中に名刺が無いと困るとおっしゃる場合は、たとえ飛行機に乗ってでも日本全国どこへでも名刺を届ける覚悟です。
ーーー仕事の上でも人間関係は大事ですよね。
うちのお客様って友だちみたいな人が多いんですよね。
ランニング部とか釣り部など、たくさんあるんですけど、全部お客様と一緒なんです。笑
お客様なのか、友だちなのかわからないような、そんな人達が全部、お客様でして。仕事以外の関係性が秘訣だと思うんです。
あと、僕は接待とか一切しないですね。仕事目的のゴルフや飲みに行く(特に夜のお店)といった接待は一切しないと決めてます。
お客様とは親友だと思っています。だからお客様にとっていい物はいい、ダメなものはダメと言って商売をさせていただいてます。
ちょうど40年の節目ということで今後の展望は
現在は、主力商品がアフリカザンビアの「バナナペーパー名刺」なんです。
今から10年以上前にスウェーデン出身の環境コンサルタント、ペオ・エクベリさんと一緒にプロジェクトがはじまったのがきっかけで。
その後、全国の同業の印刷会社さんにも参入していただいて、一緒になってバナナペーパーを使いながら社会を良くしていこうという仲間の輪が広がっていったんですね。
今までは印刷会社同士はライバルで価格競争だった。これからは、そうじゃないところを目指していく。
そういう新しい商品、価値を作って、身近な人や世界が幸せになるにはどうすればよいのか。
今までのような会社の大きさやお金とか、それだけじゃない幸せや価値感、喜びを分かち合える、そういう状態をつくるビジネスをやっていきたい。
なんか上へ上へではキリがなくて。
最近は規模も大きくする必要もないと思っていて、関わる人がみんな楽しく仕事ができる状態を作り、そういう仕事を好きな人たちと一緒にチームを作ってすることが幸せだと思うんですよね。
だからビジネスは楽しいのだと思います。
自分たちで新しいビジネスを作る。毎回メンバーが変わっていってもいい。「面白いね」「やってみようか」と。成功すれば、そこにまた好きな人を巻き込んでいって。
だから社員教育はいらないんじゃないかって思うようになってきました。
興味のない人にいくら教育をしても意味ないじゃないですか。興味ある人があつまれば、ビジネスは本当にやりたいことができるかなと思っています。
好きじゃない事をやらされて、いやいや働いているのはお互い勿体ないなって思います。
ーーー好きこそものの上手なれっということですね
でも、仕事は与えられるものではないので。同時に自らリスクも受け入れないといけません。
チャレンジして、リスクを受け入れて、自ら成長していかないと、人間の器を広げる事は難しいと思います。
やっぱり、そういう人たちと一緒に仕事をしていきたいですね。
あとは、関わる人がみんな笑顔で幸せという組織を作りたいです。
会社って、ひとりでも不機嫌な人とか面白くなさそうな人がいたら、全部、伝染してしまうんですよね。
逆も同じで、明るく元気で、すごく楽しそうに仕事をしている人がいると、一気に雰囲気が良くなり、こちらも元気になります。
そういうような社風を作りたいですね。
それには、やりたくないことはやらないほうがいいですね。笑
やりたくないことは、続かないから。得意な人にお願いするのが良いかと思います。
やりたいことだけをやる会社。そんな会社が世の中にあってもいいんじゃないかなって思っています。
人生は一回切りで、私なんてあっという間に50歳ですよ、笑
やりたくないことをやっている時間なんてありません。もったいないですもんね。
やりたくない事、得意でもない事で能力を伸ばせって言われても伸びないですよね。
ゲームが好きな人は黙っていてもゲームをしますし、デザインが好きな人は黙っていてもパソコンに向かいます。
でも私みたいに外を飛び回るのが好きで、じっと机に座っていられない人間は細かい仕事は苦痛なんです。
みんな好きなことをやったほうがいいなと思いますね。
その好きなことをやってもいい社風というか、みんなが受容するっていうんですかね。
「それ面白いね、応援するよ」っていうだけで、いちいち相手がやる事を否定しないっていう。
否定されちゃうと、「それ本当にできるの?」って、現実味を帯びたことを言うから。勇気とやる気が無くなる。その人が見ている現実がおかしい事もあると思うんですよね。いや、誰もが見えていない未来を作るのがこれからの仕事だと思います。
僕は未来は明るく、楽しい事はいくらでも創造できると思うので。
理想の未来を創造したいと思える人たちと、一緒にいることが一番早く夢に近づける近道なので、誰と仕事をするのかが一番大事だと思っています。
バナナペーパーを一緒に広げている全国の仲間たちは、楽しく一緒に社会を変えていきたいという人たちなので、すごくいいなぁと思いますね。
【編集後記】
今回は、エコ名刺事業にかける想いとビジネスにおける価値観について取材をした。
先代から創業して足掛け40年。決して革新的な産業とはいえない印刷業界である。
しかし、今までの常識やしきたりに囚われない柔軟な姿勢が、世の中を変えていくのだろう。
お客様も、関係者も、そして自分自身も幸せになていく。これが、今の世の中に必要とされているフェアトレードペーパーの秘密なのだろう。
■著者 原田彗資
1981年山口県生まれ。
大手エンターテイメント企業マネージャー、研修講師を経て、独立。
現在は、Webライティング、コンサルティングなどの企業の集客支援を中心に活動している。
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